村上ファンド、ライブドア事件報道を検証 日本の新聞はなぜ「裁判官」を報じないのか「裁く側」をチェックしないメディア

2010年11月18日(木) 牧野 洋
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 高麗が担当した刑事裁判には西武鉄道の総会屋利益供与事件もあった。しかし、村上ファンド事件の1審判決を報じる際に、高麗について「利益供与事件で西武鉄道元役員に有罪を言い渡した裁判官」などと言及する記事は1本もなかった。つまり、彼の経歴については何も書かれていない記事ばかりということだ。

裁判官の個性を報じるアメリカのメディア

 ここで、同様の刑事裁判がアメリカではどうのように報道されているのか点検してみよう。最も有名なインサイダー取引事件は1989年のミルケン事件、最も有名な粉飾事件は2001年のエンロン事件だろう。

 ミルケン事件では、「ジャンク債の帝王」と呼ばれた投資銀行家マイケル・ミルケンがインサイダー取引など98の罪で起訴された。公判の舞台は、ニューヨーク南部地区の連邦地裁。判決が出る直前の1990年10月11日付の紙面で、ニューヨーク・タイムズは「ミルケン事件の最終章」という記事を掲載し、担当裁判官キンバ・ウッドに言及している。

「彼女は1年足らず前にニューヨーク南部地区の連邦地裁判事に就任したばかり。同地区連邦地裁判事として史上最年少だ。最初に脚光を浴びたのは、(ミルケンが所属する投資銀行)ドレクセル・バーナム・ランバート事件の担当になった時だった。

 ドレクセル事件は比較的簡単に片付いた。公判前にドレクセルが罪を認めたからだ。だが、ミルケン事件は一筋縄ではいかないだろう。

 もともとは独禁法の専門家で、現在46歳。これまでのところ、ミルケン裁判の処理では法曹界で高い評価を得ている。膨大な情報の中から本質を見いだしながら、確固たる姿勢で公判を進めているからだ。

 1969年にハーバード大学ロースクールを卒業し、1978年にはニューヨークの大手法律事務所の訴訟パートナーになった。巨大法律事務所でここまで出世する女性は当時としては珍しかった」

  通信社APが10月7日付で加盟各紙に配信した記事はもっとカラフルだった。

「彼女は静かに話すタイプで、流れるような黒髪にリボンを付けることが多い。だからといってくみしやすい相手と思ったら大間違い。攻撃的な弁護士や検察官でも、彼女と相対すると弱腰になる。優雅な魅力に圧倒されてしまうからだ。

 しかし、連邦地裁判事キンバ・ウッドの優雅さは見かけにすぎず、本質とは相容れない。同僚に話を聞けばすぐに分かることだが、彼女は厳格で抜け目ない。規律が重んじられる連邦裁判所にぴったりとなじんでいる。

 彼女こそミルケン事件で判決を言い渡し、歴史に名を残すことになる裁判官なのだ。これまでは主に小規模の麻薬犯罪事件を担当してきただけに、ミルケン裁判でどんな判決を書くのか予想しにくい。どんな判決になるにせよ、今後の知能犯罪を罰するうえでのお手本になるのは間違いない」

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